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    と、房一はぐいと身体を起した。それがあまり突然だつたので、傍にいた徳次は慌てて立ち上つた。

    「へえ、どういふわけでせう」

    「徳さんが、――今、そこに、おかみさんが来てるんですわ」

    「いいや、子供は助かった代りに看病かんびょうしたお松が患わずらいついたです。もう死んで十年になるですが、……」

    「御機嫌だつたね」

    房一はすかさずさう口にすると、低く鹿爪しかつめらしいお辞儀をした。どうも、これでは少し固苦しいかな、と自分の声を自分で聞きながら。彼はいくらか汗ばんでいるやうな気がした。慌あわてないで、さう自分に云つた。

    「いや、わたくしもね、すぐさう思つたんですが、どうも、こんなところで、思ひがけなかつたもんで――さう、さう、先日は失礼しました、つい出ていたもんですからお目にかかれなくつて、そのうち伺はうと思つていたんですが」

    読経がはじまつた。皆話をやめてその方を向いて坐り直した。

    「うん?」

    そこへは、案内も乞はずに、小谷吾郎が気がるに裏口から入つて来た。

    さう呟きながら、下手を眺めた。

    男は一歩下つた。

    「ホリウチ?」

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