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「あの人はつまりこんな風な人なんだわ。こんな風に――」
「何しに来た!」
「馬子まごにも衣裳つて云ふから――」と云つたほどである。
「さうか、――そんなに何もかも、こつちでして貰つてもえゝか」
「水神淵を知つとんなさるだらう」
「さあ、殺せ。――うむ、え、さあ。――え、え」
「あ、ちがふ、ちがふ。さういふんぢやないんだよ。この辺へ来るわけぢやないよ。船は船だらうが、四国の松山といふ所へ収容所ができるらしいんだな。そこへ運ばれるんだ。――こんな所を通るわけぢやないよ」
徳次はすつかり感心したとも、又その反対ともとれる云ひ方だつた。
「何を云うとる。すまじきものは宮仕へ、といふぢやないか」
「おれは!――」
「神尾司令官閣下と同列なんだよ。宇品から東京駅着。それから直ちに参内上奏されたんだよ。どうも、すばらしいね。目に見えるやうだね」
すると、間もなく診察室の方から急ぎ足で出て来た房一は、道平を見るなり、
そんな具合だから空室になつた分家の方も閉めて置くより他はなかつた。鍵屋の方はまだしも湿めつぽい匂ひがあるが、この分家は人気ひとけが去るのといつしよに家そのものの気さへ抜けてしまつて、乾いて、たゞ昔の恰好のまゝで立つているだけであつた。まさか、よそから流れこんで来た八百屋や指物師などに貸すわけにはいかない。ところが、全く打つてつけの借り手ができた。それは「医師高間房一」だつた。医者に貸すのだつたら、別に家の品を落すことはないわけだ。